講師:竹田 青嗣・居細工 豊
宗教や心理学は「物語」によって世界説明をする。
哲学は「概念」と「原理」を使い、時間をかけて言葉を磨き上げていく。
誰にとっても、いつでも、どこでもわかるような、
「なるほど、それはいい言い方だ!」という言葉を見出すゲーム。
「ある事柄の一番大事な点は何か」を大勢で出し合って「なるほど。それはいい言い方だ。」と納得できる言葉を見つけること。 哲学はそれ自体が、本質や原理を上手に探して、正当性のある合意を取り出していくゲーム。
もともと言葉というものは、何かを“言い当てる”道具ではなくて、個々人の経験を“共有”していくための道具。
「本質を見つける」とは、「絶対的な認識」を掴むということではなくて、
みんなの中に共通了解を作り出していくこと。
我々の感受性や美意識、価値観、倫理観は家庭環境(主に母子関係)の中で身につけてきたもの。
この、いつのまにか身についてしまって、簡単に捨てたり変えたりすることのできない「真偽・善悪・美醜」の規範(自己ルール)の束が自我の本質。
人間は本質的に理解し表現する存在であり、
表現することによってのみ他者と関係する存在である。
人は感銘を受けた時、この良さをなんとか言いたい、何が私に響いたかを言いたい、人と共有したいと思う。
自分が好きと思ったことを、 誰にも遠慮せず、素直に表現することが大事。
なんとなく、それっぽいことを表現することができるけど、言葉の一般意味に自分独自の経験を寄せてしまってはいけない。
そうではなくて、自分がおもしろいと思ったことや、なぜ自分に響いたかを、他者に伝わる言葉にできるかどうかが大事。
そうすることで、自分だけではなく、他の人とも世界の意味や価値について、共通了解をすることができる。
「誰もが自分だけに響く何かを持っている」が、それは同時に、言語ゲームを通して、他者との共通了解可能性を持っている。
我々は、他者と「私はこれが好き、どこが好き」と批評し合うことで、「感受性(自己ルール)」を交換し、確かめ合う。この批評し合う関係によってしか、人は自分を理解することはできない。
※ 批評:単なる好き嫌いの批判だけではなくて、その理由が入ったもの。
友達同士でのおしゃべりでも我々は「批評」を交換し合っている。
人は自分の感受性が絶対だと思う。
自分と他者とのズレがあると相手が間違っていると思ってしまう。
人は、関係を通して他人と自分の見ている世界の「違い」や「偏り」に気がついた時にだけ、
自分の持っている感受性や価値観の源である「自己ルール」の傾向を知ることができる。
だから、他者に批判された場合は、批判される理由は、半分自分にあると思った方がいい。
(※ただ、相手に過剰な「反感」や「攻撃性」がある場合はさほど気にしなくていいかもしれない)
そうして、自己ルールを確認し、編み直し、調整しながら、できるだけ気持ちよく、人間関係を築いていくことが大切。
芸術・恋愛・哲学・文化の営みは、現実の苦しさや挫折を乗り越え、生そのものへの憧れ(ロマン)を養い続けていくための営み。触れると元気が出てくる。
哲学で言えば、新しい概念を使えるようになると嬉しい。自己了解が少しずつ変わっていき、世界理解が深まっていくのが楽しい。
我々は「よく生きたい」と思うから、問いが生まれ、前進していくことができる。
この時、何が「よい」かがわからないと目指すべきところがわからない。
だから、我々は「真・善・美」について考え、「善きもの」「ほんとう」に向かって、憧れを持ちながら生きていく。
初期の頃の恋愛は理想の投影だから、相手を美化してロマンの風船は膨らんでいる。
時間が経って、相手が見えてくると、その風船が、だんだんしぼんでくる。
二人ともに風船がしぼんだら恋愛は終わる。
関係を続けるためには、人としての尊敬など、別の風船を膨らますことが大事。
それには「とことん両者で話す」以外に方法はない。
①とことん話をする。
②「二人の関係が大事」ということを土台にして話す。
恋愛の相談を受けると「朝までとことん誠実に話をしてくれる人か?」と聞いてます。
もし、そうできないのであれば、そうできるように時間をかけて陶冶して(育てて)いく。
それもできないのであれば、別れた方がいい。
人として尊敬できるようなロマンの風船を膨らませていくのはいいものですよ。
自分の考えはないけれど、相手を相対化することで批判して、自分の価値を高める人がいる。これは相対主義者。
「ものごとは見方を変えると何とでも言える」「世の中に確実なことなど何もない」「正しい考え方なんてどこにもない。」というのが相対主義の基本的な主張。 大きくなり過ぎた権威を相対化して、対抗する役割は持っている。 しかし、帰謬論法(詭弁論)に陥ったり、建設的に新しい何かを作り上げるような動きに結びつかないことが欠点。
「自己価値」を求めることは人間欲望の本質。私たちは例外なく他者の承認を必要とする。
他者と比べて、その優位によって自己価値を確認する「相対主義」「自己中心性の欲望」は人間の本性かもしれない。
しかし「自己価値」を持つ方法はもう一つある。
自分の武器を持つこと。
それがあれば、自信を持ち、他者と認め合いながら、親和的な人間関係を作っていく中に「自己価値」を感じることができる。
今回は「新・哲学入門」の著者竹田 青嗣先生が来てくださって、いろんな質問をぶつける会となりました。
哲学から恋愛相談まで幅広い質問に対して、とてもわかりやすい言葉で説明していただきました。
このおさらいPick Up!は授業中の先生の言葉を元にして、【中学生からの哲学「超」入門(ちくまプリマー新書)】【新・哲学入門(講談社現代新書)】(ともに竹田青嗣著)を参考にしてまとめています。
① 陶物(すえもの)をつくることと鋳物(いもの)をつくること。 転じて、物をつくること。
② もって生まれた性質や才能を、円満に育てあげること。 育成すること。